歩くひと~歩くことで見えてくること~【サロン講座】

たまきさんサロンスタッフです。10月27日(日)に「歩くひと~歩くことで見えてくること~」と題し、海や山といった自然の中や街なかを歩くことで得られる新たな発見や出会いの魅力を、「歩き」の達人たちから入門編として学ぶサロン講座を開催しました。

講師には、「東京スリバチ学会」会長の皆川典久さん、「青葉山・八木山フットパスの会」の内山隆弘さん、「NPO法人みちのくトレイルクラブ」事務局次長の板橋真美さんをお迎えして、環境科学研究科棟二階大講義室にて、それぞれの活動の様子や歩きの魅力について教えていただき、最後には参加者の皆さんも交えてのトーク・セッションで締めくくりました。

「挨拶」

近年、シニア世代を中心に「山歩き」や「街歩き」が盛んに行われています。これは、単に健康志向のための「ウォーキング」とは違い、地域の自然や街なかを歩くことで、新たな発見や人との出会いを楽しもうという、より積極的な活動になっています。

今回の講座では、活動されているフィールドが違う三人の講師の方をお招きして、それぞれのフィールドの魅力と、そこを歩くひとたちについて語っていただきます。


「青葉山・八木山フットパスの会」

まずご登壇いただいたのは、地元であるここ青葉山を中心に歩かれている「青葉山・八木山フットパスの会」の内山隆弘さんです。「青葉山・八木山フットパスの会」の皆さんには、催しのたびに「たまきさんサロン」を休憩地点や座学の場としてご利用いただいております。青葉山から八木山を歩かれているだけあって、皆さん健脚揃いでいつも驚かされています。

青葉山や八木山が地学的にも史学的にも非常に重要な研究フィールドであるということを、初めて教えてもらったのも「青葉山・八木山フットパスの会」のパネル展からでした。
本日も、「ガイドパネル」が会場に展示され、多くの参加者の目を捉えていました。


「歩くことで道ができる」とは、至言です。そこから考えると、多くの人々が長い年月をかけて歩き続けて来た道が今に残っているわけです。
その痕跡をたどるという「歩き」を通して、我々は時間や空間を超えて、在りし日の風景を幻視することが出来るとも言えるでしょう。

そして、フットパス(散策路)でつながる新たな道も見えてくるように思えます。


NPO法人みちのくトレイルクラブ

「みちのく潮風トレイル」とは、2011年の東日本大震災後、持続可能な地域づくりを目指すと共に豊かな自然と地域の暮らしを未来に引き継いでいくために、故・加藤則芳氏の提唱を受け、環境省によって策定された「グリーン復興プロジェクト」の取り組みの一つです。

2019年6月9日に全線開通した、青森県八戸市から福島県相馬市までの4県28市町村にまたがって太平洋沿岸を一本の道でつなぐ全長1,025kmのロングトレイルです。

自然と人との関わり方を考えるために、「自然の中を歩くこと」で「人と自然」「人と人」とのつながりを感じ、自分自身の中に新たな「言葉」を発見していくという行為と言ってもよいかと思います。
トレイルの魅力というのは、歩く速度で普段の目線の高さで自然や人と関われることと、自分の足で歩くということで得られる充実感や達成感なのかもしれません。

また、ルートは地域住民も交え決めていくため、地元でしか知られていない古い道の復活やその地に遺された記憶の風景、さらに絶景が楽しめる道などが設定されていることも魅力のひとつとなっています。

「みちのく潮風トレイル」全線を統括し、拠点となっているのが「名取トレイルセンター」です。ここには、トレイルの管理を委託されている「NPO法人みちのくトレイルクラブ」のスタッフが常駐し、ハイカーのサポートをはじめとして、トレイルに関する情報発信の拠点としての役割だけではなく、「歩く」ための各種講習会の開催、地域住民との交流の場にも使用されています。今回講師をお願いした板橋さんも、こちらのスタッフです。

トレイルは、まだ日本では海外ほど盛んではありませんが、まだ見ぬ景色を求めて潮風を感じながら無心に歩く旅をする「歩くひと」が増えることを願ってやみません。


東京スリバチ学会

NHKで2015年7月に放送された『ブラタモリ』仙台編によって、皆川さんの名前を知った方も多いと思います。

スリバチ・・・つまり谷地形のことです。これを探るために、皆川さんは「東京スリバチ学会」という学会まで立ち上げた方です。

宅地開発が進んだ都市部では、古い地形はどんどん均されていって往年の名残をとどめていないのが現状です。それでも、土地の高低差は残り、暗渠化されても川は残り、何らかの痕跡をその場にとどめているものです。皆川さんたちは、それを探っているのです。

「昔、ここはどんな風景だったのか?」「その当時の人はどんな風景を見ていたのか?」という素朴な疑問から、町がどのように発展していったのか、変わらなかったものは何かが見えてくるのだと思います。

皆川さんからほぼ毎週活動されているということを聞き、驚きました。雨だろうと雪だろうと、とりあえず集まって、自己責任で歩き出す。
そのエネルギーとバイタリティが凄い。

東日本には、各地にスリバチ学会が増殖中だそうです。東北にも「宮城スリバチ学会」「秋田スリバチ学会」ができて、盛んに活動中ということでした。

スリバチ学会、おそるべし!です。


「洞穴小ばなし」

本日の司会を務めている、たまきさんサロンスタッフの私も、実は長年、洞穴探検を趣味にしております。

皆川さんの「スリバチ」地形に触発されて、余談ながら小ネタを用意させていただきました。

洞穴(特に鍾乳洞)関係の探検においても、スリバチ地形は非常に重要なアイテムの一つになっています。

地図記号の「おう地」。この記号が狭い地域に集中して多数記されている場所があります。

それは、鍾乳洞で有名な秋吉台です。実際に現地で見てみるとわかりますが、地面がきれいなスリバチ状にくぼんでいます。これは、その地下にある石灰岩が崩落し空洞ができて地面がくぼんだことを現わしているのです。多くは土没しているので、このくぼみから直接地下世界へ入れるとは限らないのですが、地下に鍾乳洞が存在するかも?というひとつの指針にはなります。

そんなわけで、洞穴探検家はこんなスリバチ地形「ドリーネ」にとても惹かれているのです。


「トーク・セッション」

今回の企画を発案した時に、同じ「歩き」でありながらもフィールドが違う講師をお招きすることになるので、この機会にぜひ対談も組み込みたいと思いました。

(司会者)まず、環境学習施設のたまきさんサロンとして、聞いておきたい問題点があります。それは、歩くことで見えてくる「環境問題」についてです。例えば、過剰な開発による景観の破壊やごみ問題などなのですが、いかがでしょうか?

(内山さん)青葉山は、かつてはお城の水源として大切に守られてきた場所であったのですが、今、青葉山を歩くと、残念ながらごみの不法投棄が目につくようになってしまっています。これは、人が歩かない場所だからこそ捨てられているとも言えるかもしれません。

(司会者)人の目が当てられ、道がきれいに整備されていれば、ゴミも捨てづらいということですね。

(内山さん)青葉山もかつては土の道がかなり多かったわけで、災害のことを考えれば整備も大事なことではありますが、アスファルトの道に整備されてしまうことで、土の道が持つ価値観というものを損ねてしまうということになるのではないかとも思っています。

(皆川さん)仙台では「四ツ谷用水」がいい例ですが、歴史的な痕跡がまだまだ残っている場所があります。忘れられ、あるいは気づかずに整地され失われてしまうのは非常に残念なことです。もっと町の中に眠っているお宝に気づいて目をかけて欲しいですね。

(司会者)開発や整備、景観や遺構の保全の問題は、大きな課題だと思います。

(皆川さん)最近は、水害をはじめとして水の悪い面ばかりが注目されていますが、水と人、水と街との関わりを、もう一度見つめ直すような街歩きを仕掛けていきたいと思っています。

(板橋さん)山と海とのつながりを体感できる「みちのく潮風トレイル」の場合、短い道のりの中でコースが山に入ったり海岸沿いの道になったりしますが、車が入って行けるような林道沿いには大型のごみが不法投棄されていたり、海の入り江にはプラスチックごみが打ち寄せられているのを目の当たりにします。

(司会者)海洋プラスチックごみの問題は、世界規模での大きな環境問題になっています。

(板橋さん)残念に思ったハイカーがごみ拾いをする。歩くことが環境を整備するきっかけにつながっていくということを感じます。

(司会者)先生方が活動されている中で、「歩くひと」としてこの先どんな「野望」を持って歩みを進められていくのかお聞きしたいです。そのためには、乗り越えねばならない壁もたくさん見えていると思います。その辺りも含めて教えてください。

(内山さん)青葉山・八木山には魅力的な場所がたくさんありますが、どうしても避けて通れないのが事故の問題だと思います。いつも自己責任での参加ということを強調していますが、山歩きをする以上は常についてまわる問題です。

(司会者)保険は各自で加入しているのですか?

(内山さん)参加費の中からイベントごとに強制加入にしています。とはいえ、保険ではカバーしきれない事故が発生する可能性があるということです。

(司会者)洞穴探検の場合も企画者がその都度、強制加入しています。

(内山さん)あと問題なのは、道の所有者が誰か、誰が管理する土地なのかということがあります。

(司会者)私有地とのからみですね? どこでも自由に入っていけるわけではない。

(皆川さん)八木山は所有者の許可を取って歩いているわけですね? 国有林の中は自由に歩いてもいいのですか?

(内山さん)「八木山治山ガーデン」という名前があるのですが、そこは自由に歩ける場所です。

(内山さん)危険に対する自己責任の意識や土地の所有・管理区分といった問題は、たしかに大きな壁ではありますが、「歩く」ということの価値を共有することで乗り越えていくという方法もあるのではないかと思っています。

(皆川さん)スリバチ学会としての野望は特にないのですが、地形や水というものに着目して街の魅力を発見するということは、どこの地域においても汎用的に通用する方法論だと思います。そんな趣味を持って街歩きをやってみたいという方は、ぜひお声がけいただきたいです。実際に歩くことやマップづくりをしながら地形ファンを増やしていきたいと考えております。

(司会者)もう一度、『ブラタモリ』を仙台に呼ぶとか?

(皆川さん)今のところ私が出る予定はないのですが、番組の方から私の方へ「何かネタはないですか?」と連絡が来るので、裏の方では動いております。近々、秋田スリバチ学会の会長さんが番組に出演される予定になっておりますので、楽しみにしてください。

(板橋さん)私たちは、ようやく繋がったこの「みちのく潮風トレイル」の道が、最低でも百年は長持ちして続くようにしたいと考えています。それは、道が途絶えないようにすること。そのためには、道の管理を一定の水準で皆さんが安心して歩けるようにし続けることが大切だと思っています。

(司会者)板橋さんは、何か大きな野望は抱いていないのでしょうか?

(板橋さん)個人的なことになりますが、この1,025kmという道を制覇したいと思っています。実はまだ400 km位しか歩いていないのです。

(皆川さん)素朴な疑問なのですが、トレイルは誰でも気軽に歩けるものなのですか?

(板橋さん)基本的には既存の道をルートとして使っているので、街なかを通る道だと普通の恰好でも歩けます。ただ、ルートによってはそれなりの装備や計画が必要になってくる場所もあります。まずは、全線の地図の中から自分の体力や興味にあった場所を選んで歩かれるといいと思います。

(司会者)道の整備のお話が出ましたが、どのような形で行っているのでしょうか?

(板橋さん)行政、NPOが主体となって、ボランティアの方を募って整備をしています。また、登山道などは地域の方々にも整備にご協力いただいています。

(司会者)内山さんの会でも整備をされていましたよね?

(内山さん)金剛沢市有林の道沿いに参加者の足形を型どった標識を置いたり、今年の春には空き地を借りて手作りの公園「青葉山フットパーク」という公園を作りました。

(司会者)そういった整備は何を財源としているのでしょうか?

(内山さん)フットパークについては「緑の環境プラン大賞」という都市緑化機構という団体がやっている賞に応募し、100万円をいただいたので材料費にあてました。労力はすべてボランティアによりますが、そういう地道な作業もまた道に愛着を持ってもらうということにつながると思っています。歩くイベントで来たのが、いつの間にか雑草取り大会に変わっていたなんてこともよくあります。

(司会者)それはそれでいいことですね。何をするにもお金は必要なものなので、イベントのたびに基金や寄付をお願いするというのも、ひとつの手かもしれません。

(内山さん)ガイドマップなども作って販売し、売り上げをプールしておくこともしています。

(司会者)道を整備することによって、多くの人が歩けるようになる。それが、また道の保全につながっていくということでしょうか。

(参加者からの質問)環境省のトレイル、県の宮城オルレなどがあるが、横のつながりはどういうふうになっているのでしょうか?

(板橋さん)今のところ、横のつながりはまだ出来ていない状況ですが、先日も鳴子に新しいオルレのルートが出来ていますし、今後同じ道を歩く仲間として一緒にイベントなどが出来るようになればいいと思っています。

(司会者)仙台市としては、例えば四ツ谷用水の跡を歩くツアーなどを毎年開催していますが、まだ国や県とのつながりは出来ていない状況なので、今回のような企画を通して可能な部分では連携していければよいと考えております。


「まとめ」

今回は座学ではありましたが、いろいろな視点から「歩く」ことの魅力をたっぷりと学べたと思います。同じ風景を見るにしても、違った視点から眺めて見ることで、それまでとは違うものが見えてくるとは、よく言われていることです。

また、歩くことで道ができ、保全にもつながっていくということを学びました。

参加者の中には、まだ「歩き」を本格的に経験されていないという方も多かったのですが、いただいたアンケートには「実際に歩いてみたくなった」という感想が多く寄せられていました。講座企画者としては、うれしい限りです。

例えば、地形や地層、動物や植物、遺跡や化石、自然環境や街並みの変化など、実際にその現場に立ってみないと見えてこない風景があります。そんな新たな風景を求めて、時に時空間をも超えながら、「歩くひと」は旅を続けていくのだと思います。

まずは、近所の散歩からでもいいので、気楽に一歩踏み出してみましょう!

講師の先生方が書かれた本や資料は、たまきさんサロンにも置いてありますので、興味のある方はぜひ読んでみてください。

皆川さん、内山さん、板橋さん、そして参加者の皆さん、ありがとうございました。

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せんだい環境学習館 たまきさんサロン
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