環境科学がよくわかるディスカッション「日本のエネルギー問題と原発:どう向き合えば良いのか」

トレンチャー先生の環境科学がよくわかるディスカッション。今回は、とても神経を使う講座です。増加する二酸化炭素の切り札になり得るのか?問題から目をそらしてはいられない。日本のエネルギー問題と原発を改めて話し合ってみようという会です。

 

3回目の講座です。今日は極めて語りづらい。極めて難しい話です。原発を取り上げてみようと思います。
被災地にいる皆さんにこういう話をするのはどうかな?って思いもあったのですが、被災地こそ大切かなという思いもあり開催しています。

 

ただし私はこの問題の専門家ではありません。実際には私の専門領域をかなり大きく踏み出して、今日は医療まで踏み込みます。ですが私はしょっちゅう関連論文を読んでまして、公にされている内容を皆さんにわかりやすく説明できればと思います。

 


今日の内容を羅列してみました。
・情報交換
・我々が直面している気候・エネルギーの危機
・放射性物質による健康への影響
・放射性廃棄物管理の問題
・再生可能エネルギーは原子力の代わりになれるか
・どう向き合えば良いのか

何が書いてあるかわからない内容に見えますが皆さんが感じている心配を一個づつ取りあげ、その一個づつを科学的根拠を持ってお答えしたいと考えています。
今日は自分の意見というより科学的根拠で紹介したいと思います。
その前に、せっかくみなさん環境に興味のある方が集まっていますので、この二週間で何か気になった情報やニュースなどがありましたらシェアしていただければと思います。

 

今野さんから面白い情報があるということです。
「2月の16日に環境省から発表された気候変動のレポートがありますので、資料として紹介したいと思います。」

 

東北大学の先生方も関わっているとのことですので、是非とも読んでみてください。
情報はこちら>>「気候変動の観測・予測・影響評価に関する統合レポート2018~日本の気候変動とその影響~」の公表について

 

IPCCコミュニケーターの研修が3月11日に仙台で開催されます。
世界の科学者がまとめた温暖化に関する情報を、一般の方にもわかりやすくしたものを正しくお伝えするという役割がコミュニケーター認証です。
興味がありましたら是非とも環境省の認証を受けていただければとおもいます。
地球温暖化防止コミュニケーター>>

 

フランスによく行く人が言ってたのですがセーヌ川が水位が上がってしまって観光に大きな痛手が出ていると話を聞きました。

 


土曜日の新聞に、石炭火力などに投資している会社の投資からは撤退しましょうという記事が載っていました。わたしも電気代などを環境の良いものに切り替えましたので、興味深かったです。

 

そもそも我々が直面するエネルギー危機を認識してもらえればと思います。
まもなくあの日から7年が経とうとしています。どうして原発事故が起きたかは、この講座では割愛させていただきますが、この3つの数字が参考になるのではないかと思います。

 

18万人
20兆円
30年間

まずひとつは避難生活をしなければならなかった人の数です。この数字は自分が生まれたオーストラリアでは、かなり大きな田舎の町に等しい人数が、今でも福島から離れて暮らしているということです。

 

損害費用なのですが、当時推定された金額の約倍となってます。損害金額はどんどん増えていて、ほんとうに大変なことです。
そして福島に行くとわかるのですが人の手で除染を行なっていて、最後に除染したものをどこに持って行くかはまだ決まっていません。
そして廃炉。今日まだできていない技術をこれから開発して、主にロボットで作業を行うのですが、とんでもない費用がかかり、30年もの月日がかかります。

 

あと、計れない被害があります。これは福島県へ向けた風評被害ですね。それと人間への被ばく被害。これは極めて難しいことで、今日はこのあたりのことについて考えることになります。

 

では、事故に当たって、最も印象的だったことはなんですか?
「政治家が、直接害がないとか大きな嘘をついていた。とても疑い深いことだった。」
福島に住んでいたので「あの原発が爆発するってどういうこと?」って思いました。だんだん情報が集まってきて、なるほどって思いました。



いまおっしゃった「あの原発」って、どんなイメージだったのでしょう?
「皆手をかけて維持してきた施設で、あれだけ厳密に注意して管理してきたものがという思いです。」

 

ある機関に所属していると、機関に誇りを持つのが当然なんですよね。例えば私の研究室で事故が起きて仙台市民に大きな被害が及んだとしたら、割り切れない思いになると考えます。
福島で働いていた方は非常に辛かったと思います。

 

原発事故の前でも反対してきた方はたくさんいましたが、事故のあとはさらに増えて、今では原発は世界ではあまり人気のない発電方法だというのが現状です

 

世界的な発電量の割合を見てみますと、電気の発電量に対して原発が最も多かった95〜2000年頃でも17%ぐらいだったのですが、徐々に減る傾向に入りました。これは事故とは関係なく費用対コストが大きくかかる。現場で働く人材が少なくなっている。いろいろなボトルネックがあって、すぐには作れなくなっているというのが現状です。

 

事故を受けて脱原発を決めた国があります。スイス、イタリア、ドイツ、台湾など。
増やす国は中国、インド、韓国など。
そして脱原発は問題か?というと、問題と捉えている科学者もいます。
では、ここで質問です。ここでしっかり原子力の問題点を語り合おうと思います。これだけ世界中にあったのだから、いいところもあったのだろうと思いますので、改めて思い出してみましょう。

 

CO2を発生させないで、化石燃料の消費を減らせる。

 

「だけど発電所を作るまでには、とんでもないCO2をつかっているのでは?」
燃料の採掘や、原発そのものを作るときのコンクリートや配管などトータルを考えると結構かかるのではというご意見ですね。こちらは後ほどお答えしますが、重要なご意見です。

 

皆さんの意見を聞いていると、利点が少ないように感じますが、こちらを見てください。88年の写真です。
この方がわかる方はいらっしゃいますか?アメリカ議会で証言をしている、NASAの気候変動に関する研究のトップを務めていたハンソン博士です。当時、地球の温度が上がってしまうのでは?とたくさんのデータを集めていました。そして要因として地球温暖化、海面上昇などの因果関係を明らかにしたとき、このまま化石燃料を燃やし続けると地球はとんでもないことになると予測し、政府国民に発信しなければと議会に働きかけたのです。これは30年前です。我々は30年前から地球温暖化の因果関係を解っているはずです。

 

こちらはその翌日の非常に世界的に有名なニューヨークタイムズの第一面です。その第一面にこのグラフが載って、地球の平均気温が上がっている。原因として化石燃料を減らさないとまずいと警告を鳴らしたんです。

 

翌年です。国連総会で英国のサッチャー首相は演説を行いました。「我々はNASAのメッセージを受け止めて人類全体としてすぐにこの問題に取り組まなければなりません。」そして対策は非常に重要な政治テーマとなりました。

 

そしてそれからどうなったかというと、非常に残念な結果ですが、二酸化炭素の排出はものすごく増えました。
特に石炭の世界的な消費が、特に中国ベトナムインドなどアジアを中心にどんどん増えています。
そして世界中の消費量は加速度的に増えています。

 

去年、一昨年には、中国の消費量が少し減ったおかげで全世界での消費量がピークを少し超えた感じはあるのですが、まだまだ喜ぶのは早いです。我々はこれをゼロにする必要があり、まさにこれから毎年々々数十年かけて努力をしなければいけないです。

 

先ほど原発そのものを建てるときにCO2が出るのでないのかという意見が出ましたが、国連はその辺りを計算しています。
発電施設のライフサイクルの中で出てくるCO2を見ると、石炭が一番ひどいです。1Kwhを作るのに1000gのCO2が出てくるということが知られています。天然ガスはその半分ぐらい。原発は、採掘の際に出てくる分を加味してもほぼゼロに近いです。太陽光発電は作るのにエネルギーがかかるので、すこし微妙です。パネルを作る際にエネルギーが必要だからです。

 

事故前の電源構成の状況を、事故後と比べてみますと。事故前は非常にバランスが良かった。国際的には魅力的な構成で、1Kwhを作るときに400gしか排出していなかったのは、国際的にも低いのです。
それが原発がゼロになったために石炭が増え、LNGもすごく増えてしまった。そのため、日本のエネルギー海外依存は、以前は6割ぐらいだったものが海外の依存が9割になってしまった。

 

そして日本の二酸化炭素の排出が、他の国と比べて増えてしまった。
原発の停止で代わりの石炭火力と天然ガスの発電のために、毎年々々省エネに努めているのに全国の排出量は増えてしまった。これが問題か?は、皆さんの価値観によって変わってきます。

 

そして化石燃料の割合が増えたおかげで、皆さんの電気料金がかなり上がったはずです。
実感はありますか?日本は家が小さいのに、本当に高いのです。私の家では毎月1.3万円もかかります。皆さんいかがですか?
「震災の後に少し上がったけど、先生ほど高くなっていないかな?(笑)」
「夏冬に上がることはあったけど、今はちょっと高いかなって気がしますね」
燃料コストなんですが、一番安いのは原発です。一度燃料を原子炉に入れると2年ぐらい発電します。
全国的に原発が止まってから電気代がぐんと上がってしまう。それで一番困るのは産業界です。電力を大量に消費して製品を作っている日本のものつくり業界は国際競争力を失ってしまうのではないかという懸念が今でもあります。

 

NASAのJ.ハンソン博士は気候科学者と共同で、公開した形で手紙を執筆しました。これは原発を停止することを考える政策立案者向けでした。気候変動の危機を考えると今や安全な原子力の技術開発と導入拡大を目指すべきだと訴えました。これは原発事故の2年後のことです。
こういった意見のある科学者もいたということをご理解ください。

 

原子力は安いと仰いましたが、世界的にはどうなんでしょう?
米国では、今は一番安いのはシェールガスで、原発が一番高い。日本と逆ですね。なぜでしょう?

 

今日はちょっと内容がギュウギューなので事故が起こってどう変わったか?事故が起きる前はどうだったかを話してみませんか?

 

そちらの方。さっきのお茶の時のお話を。
「原発がいいか悪いかは震災前にも本を読んだりして考えたんですけど、原発って人類が50年ぐらいしか使ってなくって、しかも最初の頃はすごく数が少なかったのに3回も事故を起こしているものは、もうダメだなぁと。」
先生と話していて飛行機事故は落ちると大勢の人が亡くなるからショックだけど、原発は目に見えた死者が出ないから微妙な気持ちになってしまうと。

 

そもそも原発には反対してたけど、廃棄物ですね。何十万年も隔離しなければいけないというのは。。。

 

放射能と有害物質がこの世の中から消えるには何年かかるか?というのは、非常に大きな問題です。ただ、世代を超えて人々を苦しめる有害物質は放射能だけではなく、プラスチックや二酸化炭素、世の中にはいろいろな有害物質が存在しています。放射能が環境にあるとどんな影響があるかを、今日はしっかり検討してみましょう。

 

原発事故が起こって、そのあたりはマスコミで報道されましたが。
原発事故で放出された放射能は主に二つあって、ヨウ素、セシウムのふた種類です。そのうちヨウ素はものすごい速さで無くなって、いま探しに行ってもほぼ無いという状況です。
ただ困ったことにヨウ素というのは人体に重要な物質で、人体は吸収して甲状腺に蓄積してしまう。それは子供にとって甲状腺癌になる危険があります。
セシウムは半分になるのに30年ほどかかります。では、人に対する健康リスクを検討してみましょう。

 

こちらの発言は覚えてらっしゃいますか。
「ただちには影響の出る数値ではない」と伝えています。
これは極めて大切なことです。

 

原発事故が起こって、数ヶ月後に作成されたグラフです。

 

赤いところが一番高いところですね。
周りの部分は、この数値が高いかどうかということが大切ですね。
この周りの数値は極めて低いということです。
我々は日々、環境放射線を受けています。この数値は国によって違います。
私は先週シンガポールに行ってきました。シンガポールでは0.1シーベルトの環境放射線を受けているのですが、その数値は青の部分のレベルです。

 

このレベルの放射能が出て、まず事態を心配したのは国連でした。
国連の専門家による委員会が福島県を訪問しました。
その結果を見ましたか?
彼らが言っているのは「一般公衆では発がんリスクは上昇しないだろう」とのことです。
1度100マイクロシーベルトの放射線を浴びた人の発がんリスクは1.3%ほど上昇するということですが、日本ではこれほどの放射線を浴びた人がいないという結果となりました。
日本人の平均としては、他国の環境放射線レベルを下回るだろうと。
ただし、放射線を浴びた子供達はわずかに上がるリスクはあるということです。

 

甲状腺癌は極めて珍しいガンです。仮にこの場に1000人子供がいても、見つけ出すことはできないだろうと。その数値がわずかに上昇するだろうと報告書では伝えています。
それを県庁は極めて慎重に受け止め、超音波の検査機器を使ってガンがあるか調査を行いました。写真はサイエンス誌で紹介されたものです。

 

30万人に第一回目の調査を行いました。通常は100万人に3人しか見つからないという発生率ですが。
ガンまたはガンの疑いがあるという人は、30万人に100名。これは国の平均値を大きく超えています。
平均の100倍の数値です。
ですが別の先生がすぐに査読付きの論文を発表しました。そしてその論文は大きな反響をおこしました。
その先生の論文では、福島の調査では極めて新しい型の計測器を使い、極めて高い技術で探そうとして調べている。過去の調査には旧型の機器を使用しているので単純に比べることが出来ないということです。
そのため、環境省で同じ機器で4000人を調べたところ、結果は一人。ただし対象者数が違うので、なんとも言えないところです。
そして福島県では調査を事故後すぐに行いましたが、チェルノブイリでは小児がんが増えたのは事故後数年たってからです。

ここのテーマは原発は事故があったときに危険なものなのか?なのですが、このような科学的な考え方もあります。
1kWhの電気を作るには、何人の方が亡くなるか?という資料があります。
ダムは主に落盤で亡くなっていますが、太陽光発電も綺麗なイメージですが亡くなっています。パネルは主に中国で作られています。製造には重金属などを使っているので、亡くなる方がいます。
原子力は、死者が出た事故はほぼ無いです。いろいろな資料がありますが、とても少ないのが現実です。
石炭は、なぜこんなに沢山の方が亡くなるのでしょう?

 

「石炭を掘ってて落盤とか?」
それもあるでしょうが、いちばんの原因ではありません。

 

原因は、大気汚染。世界的に大気汚染で300万人が亡くなってます。
PM2.5。SOX、NOX、オゾンこれが死因の中心です。特に石炭火力の発電は、PM2.5の発生原因となります、

 

中国など、アジアの割合が多いのです。

 

こちらは、左が原発事故で怒っている日本の市民。滅多に怒らない日本人がデモを起こしています。そして右はドイツの市民。
「原発は危険だ」というイメージがあります。あなたはどのようにお考えですか?

 

福島の野菜は美味しくて、でも原発事故の風評被害で値段が下がっていて。安全か危険かわからないってのがいちばん不安でした。

 

放射能って、どれだけ危険なの?っていうのもわからない。
極めて世間の考えとぶつかる考えですが、インドやブラジルなど環境放射線が高いところの方が、がんにかかる率が低いところがあります。

 

「疑問に思っていることなんですけど、うちの親戚が農家をやっていてお米は国に出して検査をしてもらわないといけないじゃないですか。お米はOKをもらったのですが、その隣で栽培しているキノコはダメなんですよね。それはなんでなのか?」
「それはキノコってのは、だいたい10メートル四方ぐらいの鉱物なども集まってきて子実体ってのができるんです。それなんで集まってきてしまう。」

 

そういう注意する側面がありますね。
他にも報道されていない事実を科学的な側面で紹介させていただきましたけど、今日の私の話を聞いて安心したって方はいましたか?

 

科学的には甲状腺の異常というのは世界的には増えています。ただ、世界中の半分ぐらいの人は問題のない異常で寿命を迎えている。それを考えると、このあまり知られていないっていうことも発見でした。

 

最後にひとつだけ紹介させてください。
再生可能エネルギーは原発の代わりになるのか?
これは私も強く望みます。100%の再生エネルギーを早く実現して欲しいのですが、現実はそうはいかない。

 

一基の原子力発電の電力をまかなうのにどれだけの自然エネルギーが必要かを表しているのですけど、たとえば住宅用太陽光発電。

 

東京でいうと東京都のすべての屋根に太陽光発電を設置しないとまかなえない。だけど、夜は発電できない。曇りの日も弱いから、実質そんなに伸びないだろう。
例えばメガソーラー。それでも6000。問題はその場所がない。
原発はいろいろな問題を抱えているのですが、国土が狭いということを考えると、そこには大きな利点もある。
もうちょっと細かく紹介したかったのですが、今日の講義で何か質問はありますか?
「セシウムの話ばっかりでしたが、ストロンチウムとか他の物質の話はどうなの?」

 


量で考えると、セシウムとヨウ素が大半でしたが、他の物質のことはよくわかりません。
そしてプルトニウムなんかもありますが、その半減期は非常に長いんです。

 


ただ、その分離はしやすく、管理はとても簡単なんです。
では、お時間になりました。いつも時間が足りなくなってしまいます。

 


今日の講義は、とても複雑なものでした。
電気を使いたければ、二酸化炭素の排出の少ないものを選ばなければいけない。だけど、原発はどうなの?
結果的に電気使用量を減らせばいいのだろうけど、日本って製品の輸出で潤っている国だし。難しい問題だなぁ。
ではでは、次回もお楽しみに。

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